クリーニング店の手指消毒で『次亜塩素酸水』を推奨しない理由

コロナ禍の影響で、私(坂口)個人宛てにこのような問い合わせが殺到しています。

「次亜塩素酸水って、受付時の消毒に使えますか?」

結論から申し上げると、クリーニング店での使用は控えたほうが無難です。

まず、皆さんがよく耳にする「次亜塩素酸ナトリウム」と「次亜塩素酸水」は明確に違います。

何が違うかというと、

1. 次亜塩素酸ナトリウム
水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を含むアルカリの水溶液で、漂白力が強い次亜塩素酸イオンを含みます。漂白だけでなく、菌やウイルスに対して強い効果があります。しかし、苛性ソーダはタンパク質を溶かすので、手指消毒としては適当ではありません。

2. 次亜塩素酸水
一言に「次亜塩素酸水」といっても、いくつか種類があります。

2-1 微酸性次亜塩素酸水
PHが6程度の次亜塩素酸水。次亜塩素酸がもっとも安定していて、ウイルス減少効果が最も高いとされています。

2-2 塩基性次亜塩素酸水
PHが7以上の次亜塩素酸水。溶け込んでいる次亜塩素酸が次亜塩素酸イオン化します。

2-3 強酸性次亜塩素酸水
PHが3以下の次亜塩素酸水。溶け込んでいる次亜塩素酸が分解して塩素(塩素ガス)になります。

このうち、使用できるのは2-1の「微酸性次亜塩素酸水」です。2-2および2-3は次亜塩素酸が変質し、アルカリ下では漂白の危険、強酸性下では塩素ガスが発生する危険があります。

では、「微酸性次亜塩素酸水」であれば、アルコールのようにスプレーや手指に少量つけてウイルス抑制ができるのでしょうか?

答えはNOです。
本件については、コロナ以前から食材や食器の洗浄用途として次亜塩素酸水生成装置を販売する大手「森永乳業」が、下記の文書で公式に否定しています。

https://www.morinagamilk.co.jp/products/purester/news/202004faq_pickup.pdf

当該資料6ページの上段「スプレーボトルに詰めてアルコールのように使えますか?」という質問に対して否定しています。理由は、界面活性剤を含まない次亜塩素酸水が手指の指紋まで浸透するとは考えづらく、湿らせる程度では効果がないとしています。まさにそのとおりだと考えます。

手指はタンパク質の塊で、なおかつその表面は皮脂で覆われています。これに、界面活性剤を含まない表面張力が高い水(水溶液)が触れても、指紋の凹みには届かないでしょう。

もうひとつ、クリーニング店ならではの問題があります。
それはとても弱い「漂白力」です。

「次亜塩素酸水」と漂白剤である「次亜塩素酸ナトリウム」が明確に違うことは先述しましたが、共通している点として、どちらにも塩素による酸化作用があります。この酸化作用が殺菌力になるのですが、残念ながら次亜塩素酸水にも、ごくわずか、漂白作用があります。

濃色のタオルを用いた漂白テスト

黒色のタオル(数回洗濯)に0.1ccずつ、次亜塩素酸水を垂らして乾燥させ、漂白の度合いを確認。
A-D社はいずれも「ボトル売り」の次亜塩素酸水。
「電解次亜水」とは、次亜塩素酸水による生成装置で作ったもの。濃度は50-100ppm程度
いずれもPHは4-6の範囲内なので、「弱酸性次亜塩素酸水」あるいは「微酸性次亜塩素酸水」にカテゴライズされるもの。
参考までに「次亜塩素酸ナトリウム」とも比較。

メーカーにより差はありますが、どれもごく僅かながらに漂白されます。もちろん、堅牢度が高いものであれば問題はありません。

また、次亜塩素酸水は失活が早く(紫外線や温度で失活)、使用前に濃度を計測しないと効果がないことがわかっています。

以上の理由から、私(坂口)個人としては、次亜塩素酸水のクリーニング店での使用をオススメしていません。とはいえ、理由がわかってきちんと運用できるなら消毒効果がないものではないので、利用者を糾弾したり、否定したりするものではありません。

もしアルコールが手に入らないなどの理由でどうしても使いたい場合は、下記を守って使用してください。

1.使用前にしっかりと手洗いする
手指に汚れが残っていると、次亜塩素酸が有機物に優先的に反応して作用しないので、使用前に洗剤などで手を洗ってください。

2. 使用前に適正濃度を測る
手指に最適な濃度は60ppmです。30ppm以下になると効果がなく、100ppmを超えるとタンパク質老化の原因になります。適正濃度を守って運用することをオススメします。

3. 使用時は「たっぷりと濡らす」
本来はかけ流し用の除菌剤ですので、アルコールのように湿らせる程度では効果がほとんどありません。少しびしょびしょになる程度まで、しっかりと濡らしてください。可能であれば微量の洗剤と併用し、使用後は流水で洗い流してください。

以上の運用を守っていただければ、問題はないかと思います。

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